横浜地方裁判所 昭和60年(行ウ)11号 判決
原告
今井正子
被告
神奈川県足柄上福祉事務所長事務承継者
神奈川県足柄上地区行政センター所長
小山稔
右指定代理人
振旗節壽
主文
一 本件訴えを却下する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 訴訟承継前被告神奈川県足柄上福祉事務所長(以下「訴訟承継前被告」という。)が原告に対し、昭和六〇年一月一四日付公文書によつて交付した昭和五九年分給与所得の源泉徴収票(以下「本件源泉徴収票」という。)に記載された退職年月日を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 本案前の答弁
主文同旨。
第二 当事者の主張
一 請求の原因
1 原告は、昭和五四年四月一日から、神奈川県非常勤職員として、売春防止法並びに母子及び寡婦福祉法に基づく婦人相談員兼母子相談員を委嘱され、神奈川県足柄上福祉事務所に勤務していた。
2 原告は、昭和五九年三月五日、訴訟承継前被告から、口答にて、解雇を申し渡された。
3 前記解雇は、労働基準法二〇条及び神奈川県非常勤職員の雇用規則に違反するものであり、本件源泉徴収票に記載された退職は、認められない。
4 よつて、本件源泉徴収票に記載された退職年月日の取消しを求める。
二 被告の本案前の主張
訴訟承継前被告は、昭和五四年四月一日から、原告を婦人相談員兼母子相談員として委嘱したが、同五九年四月一日からは委嘱しなかつたので、所得税法二二六条により本件源泉徴収票を原告に交付したものであり、その記載を取り消す理由はなく、また、法律上の処分にはあたらない。
理由
一原告は昭和五四年四月一日から神奈川県非常勤職員であり、訴訟承継前被告から本件源泉徴収票の交付を受けたことは当事者間に争いがなく、更に、本件源泉徴収票は、弁論の全趣旨により、所得税法二二六条一項の規定に基づき作成交付された源泉徴収票であることが認められる。
しかして、右規定による源泉徴収票は、給与所得に係る源泉徴収の概要を明らかにするとともに、確定申告の便宜等に資するために、給与等の支払をする者がこれを作成し、納税地の所轄税務署長及びその給与等の支払を受ける者に交付する文書にすぎないことが明らかである。
そうすると、訴訟承継前被告から原告に交付された本件源泉徴収票に原告の退職年月日が記載されていたとしても、そのこと自体によつて原告の身分上又は納税上の法的地位に何らの消長を来たすものではないから、訴訟承継前被告の右行為は、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為ということができない。
二よつて、本件訴えは、その余の点について判断するまでもなく、不適法であることが明らかであるから、これを却下することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官古館清吾 裁判官橋本昇二 裁判官足立謙三)